現状組織を一度真っ白に。戦略機動性を高めるためのFUSSYの戦略決定プロトコル

戦略はどう実現されるか?

今回は、FUSSYでの戦略機動性を高めるためのプロトコルについて書いていこうと思います。このプロトコルは、組織が何人になっても戦略アライメント、つまり全員が戦略達成に向けて自律的に仕事ができるようにするためのものです。これができていないと、体の背骨や腰、首などが中心からガタガタに崩れたまま走るようなことになります。

さて、一番めんどうな議論として「戦略とはなんなのか」という議論が発生しがちですが、ここでは無視でいきたいと思います。基本的には、FUSSYでは下記のような定義で考えています。今初めて定義してみたので、そんなに厳密に決まっていません。

  • 良い戦略があれば戦いを省略できる。即ち、必要のないリソースの投下を避け、効率的な成長を実現することができる。

  • 良い戦略はフォーカスが決まっており、やらないことが決まっている。

  • 良い戦略は、戦略実現に向けて、自律的な作戦や戦術を練ることが可能である。

良い戦略をつくるための方法は書籍などでいろんな方法論が紹介されているかと思いますので、割愛します。今回のテーマは、決定した戦略の実行可能性を高めたり、機動力をあげるためにはどうするのかという点です。戦略・作戦・戦術・兵站の括りでは語られない部分であり、これら4つのガバナンスをどう作るのかという話になります。

戦略を変えたのに組織構造はそのままであるおかしさ

スタートアップにおいては、戦略変更はよくあることかと思います。一つの成果やイベントの影響や学びが大きいので「この3ヶ月はこれに集中します!」「やっぱり前回のは筋が悪そうだったのでやめました!」こんなことは仕方ないと言えます、どれだけ頑張って考えて腰を据えて取り組むぞと誓ったとしてもです。

戦略が変われば、新しい可能性を必死に考えて共有して組織で実行に移すわけですが、すごく不思議なことに多くの組織では組織構造は変わりません。

今回の一番のメッセージはこの部分かもしれません。なんとなくこれまでと同じ組織構造で、メンバーに新しい業務をやってもらって、既存の仕事の優先順位を都度都度マネジメントする。これではどうしても実行能力は最大化されません。戦略を変えるなら、それに合うポジションやフォーメーション、役割、組織構造まで考えようというのが今回のメッセージです。

サッカーで言えば、「攻撃的にボールを支配してパスで崩す俺たちのサッカー戦略」から、「相手にボールを持ってもらい守備でボールを奪ってカウンターで決め切る戦略」に変えたにも関わらずフォーメーションやポジションは変わっていない状態です。なんならきっとサイドバックは中に入ってくるし、フォワードは重心低いのに前からプレスをかけているでしょう。組織構造や役割が変わらない中で、機動性を高く実現できるでしょうか、そして選手たちは自律的に意思決定できるのでしょうか、否!(サッカー知らない人にも伝わりますように...)

野球で言えば、強打者2番論から、戦略を変えてバントで1点を大事にする戦略に変えたのにバントが下手な強打者がそのまま2番にいるという感じです。(野球知らない人にも伝わりますように)

ホラクラシーをベースにした組織構造で戦略アライメントのある組織を作る。

さて、この問題を解消するためにFUSSYでは端的にいうと、戦略を作る際に既存組織を完全に解散します。少しでも残っていると、ゼロから考えられないですし、「聖域」を生むきっかけになります。

組織構造をゼロにする→戦略で立てたフォーカスポイントをチームにする→チームごとに自律的に編成を行っていく、という流れになります。また、FUSSYではホラクラシー組織で組織を運営しているため、「適材を適所に」という発想はなく「適所に適材を」という思考で物事を進めています。

現在のFUSSYの組織構造。明日には生き物のように変化

また、それぞれのCircle(チームのようなもの)とRoleロール(役割)にはそれぞれ「Purpose」「Domain(権限)」「Accountability(責務)」が設定されています。また、ガバナンスミーティングによって、組織構造はいつでも提案によって、「成長機会の損失をしないように」「問題が後回しにされないように」変更されます。このプロトコルがあるからこそ、戦略を実行する組織構造と現状の組織構造の時間軸のズレが起こらないようになります。

つまり、これから説明するプロセスは、

  1. 崩壊フェーズ

    1. すべてのRoleとCircleを削除します。

  2. 戦略策定フェーズ

    1. Genral CirlceのPM(通常、代表取締役社長)から戦略を作っていく。

    2. そこからどんどんカスケードさせていく。

  3. フィードバックフェーズ

    1. Circleに所属しているメンバーからのフィードバック

  4. Circle&Role作成フェーズ

    1. 決められたフォーカスポイントに従って、Gereral Circleの中にCircleを作っていく。

  5. 2から4を十分なだけ繰り返す。

となっています。わけがわからない自信があるので、具体的な事例で見ていきましょう。

とあるエンジニア採用チームがあると仮定します。このチームは以下のような組織構造と役割で、「テックリードになりえるようなエンジニアを3名採用する」という目的のために「スカウトを中心としたダイレクトリクルーティングを行う」という戦略を立てていました。

エンジニア採用の組織構造

エンジニア採用Circleの中に、「スカウトの鬼」Circleがあります。そして、Roleとして、リクルーターやオンボーディング担当、採用案件管理などがあります。

スカウトの鬼Circleの中にはさらに下記のような組織構造があり、Roleとして「スカウト送信」ロール、「スカウトサービスの選定」ロール、「カジュアル面談」ロールなどがあります。この組織構造で、良いエンジニアを採用することができたとします。

スカウトの鬼構造

しかし、今回の期間でチームの目的・目標が「エンジニアを15名から30名にする」に変わりました。どうやらこれまでの組織構造のままだと問題が起こりそうです。そのままスカウトサービスを送り続ける未来が見えそうです。もちろん、それがベストならいいのですが。

崩壊フェーズ

さて、それでは実際に進めていきましょう。

まずはエンジニア採用チーム内の既存のCircle、Roleを全て壊します。後ろ髪を引かれる必要はありません。新しい目標のために最適な組織構造を作らないと戦略機動力は高められないので、これまでのチームを労い、感謝を述べ、解散します。

CircleもRoleもなくなる。

既存組織を一度全てまっさらにして、標準装備のロールだけが残りました。(※本当はホラクラシーにおいては「セクレタリー」と「レップリンク」が存在しますが、弊社では今はいません。人数少ないので切っています。)

Circle Lead(最初はGeneralのCircle Leadから)による戦略ドキュメントの作成〜フォーカスの作成

次に、エンジニア採用チームのリーダーが戦略を作成します。具体的には今回は、リファラル採用をメインにした採用活動をすることを戦略としていきます。人数が倍になるなら、1人が1人をリファラルで連れてくれば目標達成だ!という思考が見て取れますね。

この戦略を共有して、フィードバックをもらい以下のようなフォーカスポイントに決まりました。社内ですでにイベントに出ていたり、出れるような技術的挑戦をしているというのも今回のフォーカスに決まった理由のようです。

  • リファラル制度を確立し、リファラルからの母集団を60人集める。

  • テックブログを週に2本公開し、合計で24本公開する。

  • エンジニアメンバーのイベント出席を促進する。

フォーカスはできるだけ少なくするのがよく、だいたい3つ以内にするように社内でも調整しています。それ以上だと組織の矢印を束ねることもできないし、覚えられません。人が自律的に動くには、「ああ、これもフォーカスだったな、そういえば」をできる限り防ぐ必要があります。

フォーカスをもとにしたCircleの作成

続いて、チームで合意形成をとれたフォーカスから、エンジニア採用Circle内に子Circleを作っていきます。今回は3つのフォーカスができたので、そのまま3つのCircleを作っていきます。それぞれのCircleには「Purpose」「Domain」「Accountability」「Metrics」を設定します。

フォーカスをもとにしたCircleを作る。

それぞれのCircleで下記のように設定しました。

①リファラルの神

◼️ Purpose
社内のメンバーが使いやすいリファラル制度を作り、母集団形成に貢献すること。

◼️ Domain
・リファラル制度における予算
・リファラル制度の詳細

◼️ Accountability

・リファラル制度についてインフォームド・キャプテンであること。
・エンジニアメンバーをユーザーとして捉え、顧客開発を行いながら制度を構築すること。

② FUSSY編集部

◼️ Purpose
テックブログの編集デスクとして、ブログの量と質にコミットすること。

◼️ Domain
・ブログの企画と編集

◼️ Accountability
・エンジニアメンバーと優れたブログを作ること。
・記事のPV数管理し、届けたい層にFUSSYの優れた技術や組織文化を届けること。

③ 寄り合い組合

◼️ Purpose
イベント出席を促進して、技術とコミュニティに貢献すること。

◼️Domain
特になし

◼️ Accountability
・イベント情報の収集と参加、プレゼンすることの提案を行うこと。
・イベント参加を会社として発信し、認知を高めること。

いい感じのCircleが3つ出来上がりました。最後のプロセスとして、このCircleのPMを決定してアサインします。その後は、これらのCircle PMが戦略ドキュメントを書く担当となり、必要な孫CircleやRoleなどを決めていきます。

Before&After

結果、戦略変更前と変更後で下記のようなBefore&Afterになりました。やることが明確になり、フォーカスを実現するための組織構造が完成しました。また、これらのCircleの中で問題を感じたら、ガバナンスを提案していく改善がされていきます。この形はあくまでも最初の一歩目という形になります。

ホラクラシー組織じゃない場合どうするべきか?

弊社は、ホラクラシー組織なので、組織構造の変更が比較的しやすいと言えます。通常のピラミッド組織の場合はどうすればいいのでしょうか?提案としては、ロールだけでも明文化しておき、追加・削除していくことをお勧めします。

今どんなことに注力するべきなのかがRoleで明確になりますし、責務などを設定することにより求められる仕事レベルも明確になります。

スケール可能なプロトコルで組織アライメントを作る

以上がFUSSYが戦略を作り、その機動力を高めるためのプロセスになります。そして、このプロトコルはスケール可能な形になっているかと思います。通常、人が増えるとコミュニケーションパスの増加で戦略アライメントの時間がかかってしまいますが、このプロトコルの場合多くても3〜4段階のカスケード(例:Gereral→組織開発Circle→採用Circle→エンジニア)で済むことをシミュレーションしています。

OKRを作り、人に割り当てていくのに比べて

  • Roleが作られるので、責務や権限まで決まるので機動力が上がる。

  • アライメントの柔軟性が高い。

  • 変更の余地が多いので、スタートアップにあっている

と感じています。

まだまだ試行錯誤中なので、今後アップデートがあったらご報告させていただきます。